研究概要 |
認知記憶の生成には大脳のうちでも側頭葉が不可欠の役割を果している. 本研究ではことに視覚性記憶に焦点を絞り,そのニューロン機構を解明することを目標としている. 交付申請書記載の本年度研究計画のうち, (1)計測用コンピュータシステムの整備.(2)実験用サルの訓練及び手術.は順調に進捗した. 但し(1)については, 申請書記載通りハードウェアの不足は現在まで解消されていない. 実験計測手順は計画に従ってまず有力な記憶課題の開発を試みた. 第一に記憶課題の為の視覚刺激パターン図形を構成する方法として, フラクタルアルゴリズムの開発に成功した. 次に, 海馬傍回ニューロンの反応を指標にして交付申請書記載の種々の記憶課題をテストしたところ, ビデオモニタ上のパターン図形を記憶対象に用いた遅延見本合せ課題が適していることが判明した. この課題はヒトの健忘症において, 又サルで側頭連合野(TE野)・海馬等を破壊した時に, 機能障害をおこすことが行動学的に知られている点でも記憶研究に適している. 本年度における大きな成果として, この課題を遂行中のサルの海馬傍回側頭連合野(主にTE野)のニューロンが, 図形パターンを短期的に記憶する機能を有することを発見した. このニューロン群は, 遅延見本合せ課題の遅延期にサルが見本図形パターンを活性化概念として記憶している時にのみ発火するので, ことに作業記憶warking memoryに関連していると考えられる. 個々のニューロンは, 100枚のフラクタルパターンを遅延課題の見本刺激として提示すると, 少数のパターンにしか反応せず, 刺激選択性が極めて高い. さらに興味深いことに, 見本図形パターンの大きさを変えたり, 方向を90°回転したり, モニタ上の位置を変化しても反応に変化がなく, 図形パターンの物理的属性より範疇化された図形概念をコードするニューロンと考えられる. このような記憶ニューロンの発見は全く新しいものであり, 英誌ネイチャーに発表した.
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