認知記憶の生成には、大脳側頭葉皮質が不可欠の役割を果している。昨年度の本研究において、サル下側頭葉TE野に、図形の作業記憶に関係したニューロン群を発見した。本年度において、このニューロン群の図形選択性が学習によって獲得されたものであることを新たに証明することに成功した。この事実はこれらのニューロン群が図形の長期記憶をコードしていることを示しており、英誌Natureに発表された。具体的には日本ザルを昨年度と同様遅延見本合せ(delayed matching-to-sample)課題で訓練する。サルがレバーを引くと各試行が開始され、眼前30cmにあるテレビモニタに1つのフラクタル図形が0.2秒間提示される(見本図形)。見本図形はすぐに消え、16秒の遅延期間の後、0.2秒間比較図形がモニタに提示される。サルは、見本図形と比較図形が同一であるかどうか答えなければならない。昨年度と異なり、訓練時には100枚のフラクタル図形が一定の順序で提示され、サルは図形の形とともに提示順序を記憶する(既知図形)。さらに、ニューロン反応をテストする時には、これらの既知図形をランダムな順序で用いるのみならず、サルがそれまで一度も見たことのないフラクタル図形を混ぜて用い、それら未知図形に対する反応を調ベル。その結果、第一に、既知図形に対する反応と未知図形に対する反応を記録できた17個のニューロンについて、遅延期の平均最大発火頻度及び図形各の発火頻度分布の4次モーメントを統計的に比較すると、既知図形の方が反応が強くかつ反応選択性も鋭いことがわかった。第二に、各ニューロンの好む最適図形は、訓練時において継時的に提示された図形群から成る確率が有意に高いことが示された。この事実は、訓練中に形成された継時性に基づく連想が、ニューロン反応選択性にコードされたことを意味する。こうして本研究は、連想記憶が多数のニューロンに分散されて蓄えられる脳の情報処理様式を明らかにした。
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