研究概要 |
今年度は, ネコとラットを用いて, 小脳核, 延髄錐体または橋核刺激による大脳皮質錐体細胞の電気生理学的同定を併用した実験を行った. ネコの運動野におけるデーターは既に報告したが(野田ら, Brain Res.268;1983, 野田と山本, Brain Res.306:1984), 頭頂連合野でも細胞数200余りのデーターを得て現在論文を準備中であり, 皮質V層錐体細胞の細胞内HRP注入による形態学的所見は, 運動野と同様速および遅錐体路細胞の2群に形態学的に分類できることが明らかになり, J.Comp.Neurol.265:1987に論文が掲載された. 非錐体細胞の分析結果も, 一部第10回神経科学学術集会において発表した. さらに皮質構成細胞の比較のため体性感覚野での実験も行い, 学会発表およびBrain Res.437:1987に論文を掲載した. これらネコの実験は, 今後電子顕微鏡を用いたシナプスレベルでの研究を追加する予定である. 一方, ラットを用いた研究は, 現在まで皮質V-VI層の細胞を中心に黒く細胞内HRP染色に成功しており, 今後は皮質浅層の細胞の解析を加えていく予定である. 現在までの所見は, ラットのV層錐体細胞はLandry et al.(Exp.Brain Res.57:1985)の報告にあるように, 先端樹状突起に棘(spine)が豊富な細胞のみが染色されており, ネコ・サルと皮質細胞の構成が異なっているように思われる. ただ先端樹状突起は分枝が皮質表層で豊富であり, このような形態学的特徴は, 小脳-大脳皮質応答の波形(皮質誘導発電位は, ラットでは表面陰性波が優勢であり, 表面陽性波が顕著なネコの運動野と異なる. )と対応している可能性があり, 興味深い点である. またサルにおける実験は, 本格的には来年度に計画しているが, 予備実験として行ったHRP順行性標識の結果, 佐々木ら(Exp.Brain Res.37:1979)が報告している前頭前野(9野)への小脳性投射が, 視床のMD核で中断される可能性を示唆する所見を得ている.
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