研究概要 |
脳切片標本を用いたこれまでの研究で, 大脳皮質視覚野細胞の反応性が視覚体験により可塑的に変化する感受性期には, 白質と電気的な条件繁樹(2Hz, 30分)すると視覚野内のシナプス伝達に長期増強が生じることを見い出している. 本年度は, このシナプス伝達の長期増強の神経機構を明らかにする目的で, 仔ネコの視覚野切片標本を用い皮質細胞より細胞内記録し, 条件刺激中とその後のシナプス電位の変化を解析した. 長期増強を引き起こすためには, 条件刺激を30分以上与えなければならないため, 細胞内記録により解析することは困難である. しかし, . 潅漑液にビキュキュリンを加え抑制を少し抑えると, 短時間(5〜15分)の条件刺激で長期増強が発現することが分かり, 解析が可能となった. 白質刺激により皮質細胞に誘発される興奮性シナプス後電位(EPSP)はNMDAリセプターに依存しない時間経過の速いEPSPとNMDAリセプター依存性の遅いEPSPからなっていた. 条件刺激後, 早いEPSPの振幅が増大したので, 長期増強が興奮性シナプスで起こることが明らかになった. また, 遅いEPSPは低頻度(<0.2Hz)の白質の試験刺激中にはほとんど見られないが, 2Hzの条件刺激中には振幅が約20mVと非常に大きくなった. これは, 海馬での長期増強の場合と同様にNMDAリセプリーグ視覚野の長期増強にも関与していることを示唆している. さらにユニタリーンナプス電位レベルでの解析を行なうためにスパイク・トリガー・アベレイジング法を用いて, コニタリーンナプス電位を検出することに成功した. このように短時間で長期増強が引き起こせ, またコニタリーンナプス電位が検出できるようになったので, 今後量子解析により長期増強の機構を調べることが可能となった.
|