1、大脳皮質視覚野細胞の視覚反応性の可塑的変化の基礎と考えられるシナプス伝達の長期増強を仔ネコの視覚野脳切片標本を用いて解析した。62年度の研究により灌流液に1μMのBicucullineを加えGABA抑制を部分的に抑制すると、長期増強の発現に必要な高頻度(2Hz)の条件刺激を従来の1時間から15分に短縮できることが分かった。63年度の研究ではこの条件下で細胞内記録による解析を行い、海馬で示されているようにNMDAリセプターが長期増強の発現に関与しているか検討した。 2、白質の試験刺激(0.1Hz)に対してIIーIII層細胞に速い興奮性シナプス後電位(fEPSP)とそれに続く時間経過の遅いEPSP(sEPSP)がひきおこされた。条件刺激後、fEPS.PとsEPSPの両者に長期増強が発現した。fEPSPの立ち上がりの最大傾斜はコントロールの1.6倍となり、sEPSPの振幅は約3倍となった。13個の細胞のうち7個は両者に長期増強が起こったが、1個でfEPSPだけに、3個でsEPSPにだけ起こった。従って、fEPSPとsEPSPの長期増強は独立の現象と考えられる。 3、fEPSPはnonーNMDA型のsEPSPはNMDA型のグルタミン酸リセプターによって伝達されていた。 4、sEPSPを完全にブロックするのに十分なAPV(100μM)存在下でもAPV無しのコントロールと全く同様な時間経過で同じ大きさ(1.5倍)の長期増強がほぼ同じ頻度(7/11)で発現した。従って、fEPSPの長期増強はNMDAリセプターの活性とは無関係に発現すると結論される。 5、長期増強がシナプス前と後のどちらで起きているか調べる目的で量子解析をを試みたが、Spikeーtriggered averaging法によってシナプス結合のあるニューロン対を見いだす確率が低いことと、そのニューロン対を解析するのに十分な時間維持することが困難なため成功しなかった。
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