1.大脳皮質視覚野細胞の視覚反応性は幼生期の視覚体験によリ不可逆的に修飾される。脳切片標本を用いた電場電位の解析により、この可塑性の基礎と考えられるシナプス伝達の長期増強が感受性期の仔ネコの大脳皮質視覚野に起こることをすでに明らかにしている。本研究では、細胞内記録により視覚野での長期増強の神経機構を解析した。 2.灌流液に1μMのBicucullineを加えてGABA抑制を部分的に抑制すると、長期増強の発現に要する高頻度(2Hz)の条件刺激の時間が1時間から15分に短縮できることが分かり細胞内記録による解析が可能となった。 3.白質の試験刺激(O.lHz)によってIIーIII層細胞に速い興奮性シナプス後電位(f EPSP)とそれに続く時間経過の遅いEPSP(s EPSP)がひきおこされた。条件刺激後、f EPSPとs EPSPの両者に長期増強が発現した。f EPSPの傾斜はコントロールの1.6倍となり、s EPSPの振幅は約3倍となった。f EPSPとs EPSPの長期増強は単独でもおこったので独立の現象と考えられる。 4.f EPSPはnonーNMDA型のs EPSPはNMDA型のグルタミン酸リセプターによって伝えられていた。 5.海馬で示されている様に、f EPSPの長期増強の発現にNMDAリセプターが関与しているかを調べた。s EPSPを完全にブロックするのに十分なAPV(100μM)存在下でもAPV無しのコントロールと全く同様な時間経過で同じ大きさの長期増強がほぼ同じ頻度で発現した。従って、f EPSPの長期増強はNMDAリセプターの関与なしに発現すると結論される。 6.長期増強がシナプス前と後のどちらで起きているか調べる目的で量子解析を試みたが、spike-triggered averaging法によってシナプス結合のあるニューロン対を見いです確率が低いことと、そのニューロン対の維持が困難なため成功しなかった。
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