研究概要 |
神経系のシナプスにおいて, 神経伝達物質による科学的伝達機構が働いてイオンチャネルの開閉が制御され, シナプス電位が生ずる. その際, 伝達物質受容体とチャネルとの間に様々の代謝系を含む細胞内伝達機構が介在して細胞応答を調節する可能性が近年注目されている. 細胞内代謝系を介する応答は, その発現・持続共に緩徐で長期的であり, 信号伝達を長い時間の範囲で調節する神経系の可塑性の細胞機序の一面を構成する可能性がある. 交感神経節はアセチルコリン(ACh)のムスカリン性作用によって発生する緩徐シナプス電位を持ち, 上記課題を解析する研究対象として最良のものであると考えて選んだ. 今年度に得られた成果は次の通りである. 1)各種のムスカリン性応答を媒介する受容体のサブタイプを薬理学的手法により解析した. MCN-A-343,AF102B等の合成アゴニストはピレンゼピン感受性のM1性脱分極を起こし, また神経節内にあるドパミン含有介在ニューロンから順行性刺激に際してのドパミン放出を増大させるM1性の制御をも行う. 他方, 過分極応答はACh等によって起こり, AF-DX116に強い感受性を持ち, M_2性のものと思われる. M_2受容体は更に活動電位発生時のCa流入に関わるCaチャネルを抑制する. 2)M_2受容体を介するCaチャネルの抑制は蛋白キナーゼCを活性化するOAG, フォルボール化合物等でも起こり, Cキナーゼを抑制するH-7で抑えられるので, M_2受容体とCaチャネルの間にはPI分解に伴うCキナーゼ系が介在する事が示唆される. 3)交感神経節には環状GMP依存性蛋白キナーゼ(Gキナーゼ)が存在する事が生化学的に証明出来, Gキナーゼの基質となる90Kと54Kの二種の内在蛋白を同定した. 90K蛋白はムスカリン. MCN-A-343刺激でも燐酸化されるので, M1受容体と脱分極性イオンチャネルとの間にGキナーゼ系が介在する可能性がある.
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