前年度、第一小葉への前庭・頸求心系・尾部求心系からの投射の空間的分布を調べ、前庭と頸求心系からパラレルに投射していることを明らかにした。さらに第一小葉破壊により四肢の筋緊張異常のため直立姿勢を保持するのが困難であり、立直り反射など姿勢反射にも異常がみられた。本年度は、第一小葉と関係する前庭脊髄路(VST)細胞の性質、支配筋について麻酔下、あるいは除脳ネコで明らかにした。 1.逆行性に固定した163個のVST細胞のうち、神経発射活動が第一小葉刺激により抑制されたのは44個であり、40個は下部胸髄にまで軸索を下降させた。さらに、41個は頸求心系より興奮性の入力を受けており、頸-前庭-脊髄反射の中継細胞であった。このうち33個は前庭性入力をもうけていることから、前庭反射と頸反射共有の介在細胞である。 2.第一小葉刺激で抑制されるVST細胞は下部胸髄まで下降していることから、胸髄背筋筋活動への両反射および第一小葉刺激による作用を除脳動物で調べた。前庭神経、頸求心系をそれぞれ閾値下で刺激すると促通効果がみられ背筋緊張は昂進するが、第一小葉刺激を先行させると促通は消失した。(1)の結果とこの現象から、促通は前庭神経核で起きている可能性が示唆されたが、さらに背筋運動細胞での細胞内記録で確認したい。同様の実験を呼吸筋においても遂行中である。 3.昨年度、第一小葉刺激で姿勢保持が出来なくなったのも、背筋筋緊張が低下したためによるものと考えられる。 4.以上のことから、第一小葉は頸・前庭脊髄反射に関与し特に姿勢維持に関連する骨格筋筋緊張に影響を与えていると考えられ、従来、尾の領域といわれていたが、頸の領域あるいは前庭小脳として位置付けたほうが適当であると思われる。
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