研究概要 |
従来、小脳虫部の第一小葉は、機能局在性の観点から尾の領域として考えられてきた。しかし、第一小葉への頸部、前庭受容器からの求心性投射が確認された。そこで本課題ではこの領域の機能的役割を明らかにするため、ネコを用いて以下の実験・解析を行った。 1.入力よりみた第一小葉の体部位局在性:頸・前庭・尾部支配神経を刺激し電場電位を第一小葉で記録したところ、頸と前庭入力は第一小葉で顕著でしかも同一部位で同程度の強さで収束していた。しかし尾部からの入力はほとんど認められず、第二小葉で出現した。 2.出力らりみた体部位局在性:第一小葉を刺激し抑制された前庭脊髄路細胞 (44/163) は、胸-腰髄にまで投射しており、大部分が頚求心系・前庭神経より興奮性の収束を受けていた。即ち、第一小葉は頸反射と前庭脊髄反射の共通介在細胞に抑制的に影響を及ぼしていることになる。 3.固有背筋への作用:姿勢維持に重要な背筋に対し、前庭・頸神経刺激により緊張が亢進した (筋電図記録) 。しかも両者同時刺激により促通効果がみられた。しかし、この促通効果は第一小葉刺激を先行させると消失した。この作用は、上記2で得られた神経回路から推定されたものと合致するが、今後、細胞内記録でさらに確認したい。 4.第一小葉破壊による影響:カイニン酸で第一小葉を限局的に破壊した後は、姿勢保持が不可能であり、placing reflex,hopping reflexにも異常がみられた。主として伸筋の緊張が亢進していた。これから、第一小葉は固有背筋ばかりでなく、上下肢筋への筋緊張調節にも関与していよう。 5.以上から、第一小葉は入力からみて頸の領域あるいは前庭小脳であり、機能的にみて前庭脊髄反射と頸反射の相互作用に影響し、姿勢維持に関与している領域と考えられる。
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