研究概要 |
寒冷, 過食およびストレス等によって褐色脂肪組織(BAT)で亢進する非ふるえ熱産生(NST)の発現機序を明らかにするため, ウィスター系ラットを用い出生直前より離乳期迄のBATの生後発達とNST発現能の関係を調べた. BATは生長に伴って増大するが, 単位体重当りのBAT重量は出生時に最も高く, 成長につれて減少した. また, 背頸部(DC)BATと肩甲骨間(IS)BATの割合は出生1日前では約1:2であるが出生後次第にIS-BATの割合が増加し離乳期(21日令)には約1:3.5となっていた. NSTの主要な発現因子であるノルアドレナリン(NA)とグルカゴン(G)の単位組織当りの含量の変化には両ホルモンで明瞭な差が認められた. 即ち, NAはDC, IS共出生時には極めて少なく, 生後急増してほぼ1週間で生体のレベルに達するのに対して, Gは出生直後より成体レベルと同じかそれ以上の高いレベルで存在する. とりわけDC-BATのG含量は出生直後には極めて高く, その後漸減してほぼ1週間でIS-BATと同じレベルとなった. IS-BATではこの間G含量の変化は見られなかった. これら新生ラットのBATのNST能を見るため, BATの細切ブロックを用いてNAおよびGによる酸素消費量の増加度を調べた. 単位重量当り基礎酸素消費量は出生直後に高く離乳期で低かった. またNAにより最大酸素消費量は10日令迄は3〜5倍上昇したが離乳期には3倍以下であった. Gによる酸素消費量の増加度もNAと同様であったが, Gに対する反応性は10日令の個体で既に低下していた. これらの結果は生後の極めて早い時期からBATでNSTが起り得る事, また, 神経系が充分発達していないこの時期にはNAに代ってGが主要なNST発現因子として作用している事, 更に出生直後にはDC-BATの果す役割が大きい事を示唆している.
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