非ふるえ熱産生の発現機序を明らかにするため、出生前より離乳期迄のラットの褐色脂肪組織で非ふるえ熱産生発現能の個体発生過程を調べた。 非ふるえ熱産生の主要因子とされているノルアドレナリンの褐色脂肪組織内含量は、出生直後には極めて低くその後急激に増加してほぼ1週間で成体のレベルに達した。一方グルカゴンの含量は出生前より非常に高く、出生後も高レベルが維持された。次に、褐色脂肪組織の非ふるえ熱産生能を調べるため、組織細片を用いてClark型オキシジェン・エレクトロードにより酸素消費量の測定条件を検討し、更にノルアドレナリンとグルカゴンに対する褐色脂肪組織の反応性を比較検討した。その結果、褐色脂肪組織は出生前よりノルアドレナリン、グルカゴンのいずれにも反応すること、両ホルモンに対する反応は出生後著しく高まること、更にノルアドレナリンに対する反応性は離乳期前迄高いままであるのに対しグルカゴンに対する反応性は生後5日目には低下することが占めされた。また、ノルアドレナリンによる非ふるえ熱産生促進時には、組織内サイクリックAMPレベルが著しく高まり、その増加の程度は加令と共に大きくなった。しかしグルカゴンによる促進時には組織内サイクリックAMPレベルの増加は少なく、加令による変化も見られなかった。一方、組織内IP_3(イノシトール・トリフォスフェート)のレベルはノルアドレナリン、グルカゴンで同程度高まり、増加度は加令と共に減少する傾向が見られた。これらの結果は、新生期、とりわけ出生直後にはグルカゴンが主な発現因子として非ふるえ熱産生を起しこていること、また、グルカゴンが褐色脂肪細胞で非ふるえ熱産生を起こす作用経路はノルアドレナリンのものとは異なっていることを示唆している。更に組織細片を用いて酸素消費量を測定する本方法は褐色脂肪組織の非ふるえ熱産生能を調べる上で大変有用であることが示された。
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