研究概要 |
雌ラットの視床下部腹内側核にはエストロジェンにより興奮し, 交尾行動の主要要素であるロードーシス反射を促進する下行性ニューロンが分布する. 雄の脳ではエストロジェンは無効で, 反射も見られない. 雌ラット新生仔にテストステロンを投与すると, 成熟後ロードーシスを示さず, 腹内側核ニューロンもエストロジェンに反応しなくなるから, 発育途上の男性ホルモンの作用により脳の雄型化が起ると考えられる. この際男性ホルモンが性ステロイド受容体を有するニューロンに直接働くのか, または受容体を有する細胞から何らかの蛋白性の成長因子を産生させ, 二次的に他のニューロンの分化を起すのかは不明である. 妊娠母ラットを購入し, 雌新生仔を得た. 出生当日, 第2日, 第3日に側脳室内に抗2.5S-神経成長因子抗血清, 皮下にテストステロン・プロピオネート(各日200mg)を投与し, 第60日令で卵巣を摘除, エストロジェン, プロジェステロン処置後, 交尾行動を観察しロードーシス率を算出した. 正常家兎血清とテストステロンを投与したコントロール群に対し, 実験群は有意に高いロードーシス率を示した. ウレタン麻酔下で中脳中心灰白質の電気刺激により腹内側核ニューロンに誘発される逆行性活動電位を記録し, 興奮閾値, 絶対不応期を測定したところ, エストロジェン前処置により実験群の96のニューロンでは興奮性が上昇していたが, コントロール群の95のニューロンでは無効であった. 抗血清による受動免疫により脳の雄型化が阻止されたから, テストステロンによる脳の雄型化には神経成長因子と抗原性の共通する蛋白分子が介在すると結論した. 合成された蛋白分子が運搬されて効果を発揮すると考えれば, 性ステロイド受容体を持つニューロンとエストロジェン感受性ニューロンの分布が一致しないことも納得される. 次年度には蛋白分子の本態を同定し, その物質の投与によりテストステロンなしでの脳の雄型化を試みる.
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