前年度(昭和62年度)の研究により、脳内自己刺激レバー押しラットの生体過熱防止機序として深部体温が重要な役割を果たしており、また報酬の強度(動機づけの強さ)が体温調節系に影響を及ぼすことが明らかにされた。今年度は、この生体の過熱防止機序として生体内のどの部位が重要であるかを探るため、脳内局所加温時のレバー押し行動への影響を調べた。脳加温部位は体温調節中枢とされる視束前野、前視床下部とした。加温方法はその部位に先端0.5mmを除いて絶緑したステンレス針を植え込み、その左右の加温用電極間に高周波電流を流すことにより行った。実験開始前、軽度のエーテル麻酔下で、自己刺激用電極ソケット、加温電極用ソケット、視床下部温度測定用ソケットを装着し、さらに尾皮つ温用の測定プローベを装着し、環境温度22℃に設定した人工気象室内に設置したチャンバー内に放置した。約40分後、ラットに脳内自己刺激レバー押しを開始させた。尾血管拡張の起こっていないレバー押し開始初期に、視床下部温度を43℃まで加温すると、最初に尾血管拡張が起こり、その後レバー押しは中断され熱放散行動(GroomingやBody Extension)が発現した。加温を止めるとラットは再びレバー押しを初め、尾血管は収縮した。同一ラットで電流強度が強い場合(レバー押しに対する動機づけを強くする)、43℃の加温によってもレバー押しが中断されない場合もみられた。以上の結果は、レバー押し行動時の過熱防止機序として、深部体温、特に視床下部温度が重要な役割を果たしていることが明らかとなった。また、報酬系からの情報が体温調節系に影響していることが示唆された。
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