生体の過熱防止機序を探るため、体温上昇を伴なうように自己刺激レバーに負荷をかけた脳内自己刺激ラットを用いて以下の実験結果を得た。1.中性環境下(22℃)では1時間の期間中、主に尾血管拡張による自律性熱放散によって深部体温をある一定水準に保ちながらレバー押しを続けたラットは、暑熱環境下(36℃)では自律性熱放散だけでは深部体温を一定に維持できず、レバー押しを中断しGroomingやBody Extensionなどの熱放散行動を発現した。この熱放散行動発現時の深部体温は常に中性環境下で維持された温度よりも高かった。2.レバー押し中、特に中性環境下において重要な熱放散系路である尾からの熱放散を取り除くため、尾の切断あるいは熱性縁膜を巻き付けた時、尾切断前あるいは絶縁膜を装着しなかったcontrolに比べて、深部体温は高くなり、レバー押し行動は中断され、熱放散行動が発現した。3.脳内自己刺激の電流強度を変えることにより脳報酬の強さを変えると、中性環境下では尾血管拡張深部体温闘値が、暑熱環境下では行動性熱放散発現深部体温闘値が変わり、脳報酬が強い程、それらの闘値は高くなった。4.視床下部の局所加温を行なうと、レバー押しが中断され熱放散行動が発現した。また、報酬が強い程、脳加温温度を高くしなければレバー押しは中断されなかった。以上の結果は、生体の加熱防止機序として、深部体温、特に視床下部温度が重要な役割を果たしていることが明らかになった。また、脳報酬系は体温調節系に影響を及ぼすことが示唆された。
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