本研究ではラットにおけるあくび行動の発現機序について検討を加え、以下の実験結果を得た。1.アポモルヒネ誘発あくび行動は、βー受容体遮断薬プロプラノロールおよびピンドロールの前処置で増強された。しかし、末梢性βー受容体遮断薬およびαー受容体遮断薬では影響されなかった。2.ピンドロールで増強したアポモルヒネ誘発あくび行動は、スピペロンあるいはスコポラミンで抑制されたが、SCH 23390では影響されなかった。3.さらに、ピンドロールは、フィゾスチグミンおよびピロカルピン誘発あくび行動を増強させ、この増強されたあくび行動は、スコポラミンにより抑制されたが、スピペロンおよびSCH 23390では影響されなかった。4.ドパミンDー2受容体作動薬であるタリペキソールあるいはSND 919を投与するとあくび行動が出現した。5.タリペキソールあるいはアポモルヒネによるあくび行動の出現は、レゼルピンあるいはパラクロロフェンルアラニンの前処置によって著しく増強されたが、αーメチルチロシンの前処置では影響を受けなかった。6.パラクロロフェニルアラニン前処置後のタリペキソールによって誘発される著明なあくび行動の出現は、スペピロンあるいはスコポラミンの投与によって著明に抑制されたが、SCH 23390によっては影響を受けなかった。7.SK&F 38393をあくび行動を誘発する小量のタリペキソールと併用投与しても常同行動を誘発しなかったが、大量との併用では常同行動を誘発した。以上の結果より、あくび行動はドパミンDー2受容体あるいはムスカリン受容体を介して発現し、さらにドパミンDー2受容体作動薬誘発あくび行動は、中枢アドレナリン性およびセロトニン性神経活動によって調節され、ムスカリン受容体作動薬誘発あくび行動はアドレナリン性神経活動で調節されていることが明らかとなった。また、あくび行動に関与するドパミンDー2受容体は常同行動に関与するDー2受容体より高い感受性を有することが示唆された。
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