加令に伴う脳神経細胞の変性脱落が、老年期痴呆の原因の一つとして考えられるに至っている。虚血による脳神経細胞の変性脱落を、グルタミン酸の遮断薬が予防することから、興奮性アミノ酸が脳神経細胞の変性脱落に関与していると予想されている。私どもは、脳神経細胞の変性をひき起す機序の解明から、まず研究をスタートさせ、ついでその予防薬の検索へと進めていく方法を採った。まずそのために、アクロメリン酸の作用の解析を通じて、神経細胞変性の機序を追った。アクロメリン酸は、カイニン酸と類似の構造をもつアミノ酸で、毒キノコのドクササコより抽出されたものである。これらはカイノイドと総称されているが、アクロメリン酸投与によって不可逆的な後肢のこむらがえりがラットに生じ、それらの症状はカイニン酸とアクロメリン酸とで決定的に異なる。両者をそれぞれ投与したラットの脳脊髄病理組織切片を作成し、光学顕微鏡による検索を行なってみると、カイニン酸投与後、大脳皮質や海馬CAIで用量依存性に神経細胞の変性が認められるが、アクロメリン酸投与ラットでは、脳には殆んど何の変化も認められなかった。しかし脊髄では下位にいくほど変性が著しくなり、特に脊髄後角におけるglyosisと運動神経細胞の肥大を認めた。脊髄抑制性介在ニューロンの特異的脱落を思わせるデータである。このように病変と症状との関係について現在研究が進められているが、興奮性アミノ酸による神経細胞障害の機序、カイニン酸タイプ受容体の分布と特性、カイニン酸タイプ受容体を更に細分割すべきか、中枢神経抑制系の発達の度合とカイニン酸タイプ受容体との関係など、興味ある知見が得られようとしている。こうした神経細胞の変性に対して、グルタミン酸遮断薬の効果や、立体配置を固定したグルタミン酸関連化合物の作用などもあわせ検討した。
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