研究概要 |
本研究を遂行するために, 当研究室で研究を続けているセリン脱水酸素(SDHと略)とグアニド酢酸メチラーゼ(GATと略)の遺伝子を実験材料とした. いずれもラット肝で豊富に存在している酵素である. とくに前者は, ホルモンや食餌の組成で活性が著しく誘導・抑制される酵素であることから, 遺伝子の発現機構を分子レベルで調べるにはよい系であると考えられる. そこでまず我々は, 2つの酵素のcDNAクローンを分離し, その塩基配列を決定した. GATは235個のアミノ酸からなる分子量26100, SDHは363個のアミノ酸からなるサブモノマーMr=38200のタンパクと推定した. 次に各クローンを入ファージの遺伝子ライブラリイから得た. その塩基配列をサンガー法で決定した. GATの遺伝子は6個の, SDHのそれは9個のエクソンからなっていることが分かった. 特にSDHの遺伝子の5'側に隣接するいわゆるプロモーター領域には, 転写活性に重要であるといわれている種々のコンセンサス配列がみられた. SDHの誘導には, グルココルチコイドーホルモンが必要であるといわれているが, このホルモンのレセプターが結合する配列(GREという)に極めて類似した配列がみられた. 同じくアミノ酸代謝系の酵素でSDHと似たホルモンの影響を受けるチロシンアミノ基転移酵素の遺伝子は非常によく研究されているが, この遺伝子にも同様にGREが存在しており, その機能も証明されている. しかるにSDHの遺伝子はチロシンアミノ基転移酵素のそれと似たメカニズムで制御されている可能性が高いが, しかし厳密にいうと, グルココルチコイドの作用は, 両者ではかなり異なる面もあるので, 今後はプロモーター領域を改変することでその機能が明らかとなるものと思われる. 結論として, 本遺伝子のクローニングの成功によって上記テーマの遂行が可能となったと思われる.
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