研究概要 |
哺乳類細胞のDNA修復機構研究の一端として, X線等のイオン化放射線類似のDNA損傷を惹起することが知られているブレオマイシン(BLM)で損傷されたDNAの修復機構を透過性マウス腹水肉腫細胞とその抽出液を用いて研究し, 次の成果を得た. 1.(1)透過性細胞抽出液と二本鎖DNAを用いたBLM誘導DNA合成系(無細胞系)を樹立した. (2)この系を用いた研究で, BLM損傷端を除去し修復DNA合成の開始(priming)を可能にするエキソヌクレアーゼ(Primer activating enzyme)とDNAポリメラーゼ(pol.)βが抽出液中に存在することが示された. このエキソヌクレアーゼを分離, 精製するために, まずその活性測定法を樹立した. すなわちエキソヌクレーアゼを含む分画とBLMで二本鎖DNAを前処理したのち, 60°C, 10分間の熱処理で酵素を失活させたのち, この反応液にDNA合成基質とDNApol.としてKlenow断片を加えてDNA合成を行わせる方法で, priming活性を測定した. 2.(1)このエキソヌクレアーゼは抽出液からイオン交換クロマトグラフィーで部分精製したpol.β分画に回収された. (2)このpol.β分画を単鎖DNAセルロースで分画することにより, 目的とするエキソヌクレアーゼをpol.βから分離し得た. 3.BLM前処理透過性細胞の修復DNA合成においてATPは必須で, 少なくとも次の3つの反応に関与していることが示唆された. (1)修復断片の連結. (2)Pol.αに依存したDNA合成活性の促進. (3)Pol.βに依存したDNA合成活性の促進. 4.BLM前処理透過性細胞の修復DNA合成にはpol.αとpol.βが共に関与しているが, pol.χはヌクレオソーム間及びヌクレオソーム内DNA合成に, pol.βは主としてヌクレオソーム間DNA合成に関与していることが示唆された. 又pol.βは修復断片の完成に, よりよく関与することが示唆された. 5.現在はさきに述べたエキソヌクレアーゼの精製と性状解析に重点をおき研究中である.
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