昭和62年度に継続し、ブレオマイシン (BLM) で損傷されたDNAの修復機構を研究し次の成果を得た。1.BLM損傷DNA端 (3'-phosphoglycolate端) を除去し、修復合成開始を可能にする因子priming factorがイオン交換クロマトグラフィーでDNAポリメラーゼ (pol.) βと一緒に精製された。本priming factorは一本鎖DNA-celluloseカラムクロマトグラフィーでpol.βから分離精製された。本因子は、トリプシンに感受性で、BLM損傷DNA、精製酵素等を用いて構築した無細胞DNA修復系で明かに修復合成開始因子としての機能を示した。本因子はエキソヌクレアーゼ活性を示し、この酵素作用によりBLM損傷端を含む数ヌクレオチドが除かれ、3'-OH端をもった間隙に変えられて修復されるものと考えられた。本因子はこの他に、acid depurinatedDNAやmicrococcal nucleasetreatedDNAでもpriming活性を示し、E.coliのexonucleaseIIIと酷似した酵素性状を示したが、単一ペプチド多酵素作用をもつ因子なのか、複数種の酵素が混雑しているためなのかは、今後の重要な検討課題である。2.本priming factorはX線損傷DNAの一本鎖切断の修復においても、priming factorとしての作用を示した。3.BLM損傷DNA、priming factor、DNA混合基質、pol.β、ATP、T4DNAリガーゼ等からなる無細胞DNA修復系を樹立し、この系がpriming factor等DNA修復因子の研究に有用であることを示した。4.透過性細胞のみでなく分離核を用いても修復断片の連結 (ligation) は十分に行われ、核に比較的強く結合しているリガーゼIIが本DNA修復に関与していることが示唆されたが、これを明確にするために行った抗DNAリガーゼ特異抗体を用いた実験は、同抗体標品にヌクレアーゼ活性があり目的を達しなかった。5.今後は、先ずpriming factorのタンパク化学的性状の究明、当該遺伝子の検索を行う予定である。
|