X線等イオン化放射線類似のDNA損傷を惹起することが知られているブレオマイシン(BLM)で損傷されたDNAの修復機構を透過性細胞とその抽出液を用いて研究し、次の成果を得た。1.BLM前処理透過性細胞で樹立したDNA修復系では、(1)BLM損傷端を除去してDNA修復を開始するprimingの過程、(2)修復DNA合成の過程、(3)修復断片連結(ligation)の過程が観察され、これらの過程の解析的研究に有用な系であることが示された。2.本修復合成にはアフィディコリン感受性DNAポリメラーゼ(pol.α/δ)とDNAポリメラーゼβ(pol.β)が関与しており、前者はヌクレオソーム内および間のDNA合成に、後者は主にヌクレオソーム間のDNA合成に関与しており、また修復断片の完成に重要な役割をしていることが示された。3.本DNA修復にはATPが必須で、DNA合成、ligation等数種の反応に関与していることが示された。Ligationにおいて見かけ上、ADPがATPに代わりえたが、これは透過性細胞に存在するアデニレートキナーゼにより、ADPがATPに転換されたためであった。4.本DNA修復開始に関与すると考えらられるpriming factorの活性が、透過性細胞から塩抽出し、部分精製したpol.β分画に検出された。本priming factorは一種のエキソヌクレアーゼで、一本鎖DNAーcelluloseカラムクロマトグラフィーでpol.βから今離精製された。5.BLM損傷DNA、priming factor、DNA合成基質、pol.β、ATP、T4DNAリガーゼ等からなる無細胞DNA修復系を樹立し、priming factorの役割を再確認すると共に、この系がpriming factor等DNA修復因子の研究に有用であることを示した。6.本priming factorはX線損傷DNAの一本鎖切断の修復においてもpriming factorとして作用しうることが示された。今後は、本priming factorのタンパク化学的性状を明かにし、当該遺伝子を検索する。
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