肥満細胞のヒスタミン顆粒中には、二種のセリン性プロテアーゼのChymaseとTryptaseが局在する。これ等、プロテアーゼのうち、Chymaseに対する特異抗体、基質類似体、および特異的インヒビターが、肥満細胞からのヒスタミン顆粒の放出を阻止するが、Tryptaseの特異的インヒビターではヒスタミン顆粒の放出は阻止できないことを見出した。さらにChymaseの特異的インヒビターおよび抗Chymase抗体F(ab′)2は、肥満細胞膜のIgEレセプターの架橋に引き続く、プロテインキナーゼCによる細胞内蛋白のリン酸化を阻止した。以上の事実より、ChymaseはプロテインキナーゼCを活性化し脱顆粒機序に関与していると推定している。しかしChymaseは肥満細胞顆粒に局在し脱顆粒後は、細胞膜に留まるのに対して、プロテインキナーゼCは細胞質にあり、活性化に伴って細胞膜に結合するとされている。従ってChymaseがプロテインキナーゼCを活性化するためには、局在の異なる両酵素が接触する必要がある。肥満細胞顆粒のChymaseがヒスタミン顆粒の分泌にかかわるのか、細胞膜表面のChymaseが関与するかを明確にするため以下の実験を行い結果を得た。Chymase活性を阻害するIーAntichymase F(ab′)2、I-Bowman Burk soy bean inhibitorは細胞膜に結合し、経時的に肥満細胞顆粒に取りこまれ、その後抗原で刺激してもヒスタミン分泌は起こらない。これ等阻害剤を4℃で肥満細胞と接触させると、阻害剤は細胞膜には結合するが顆粒には取りこまれず、ヒスタミン顆粒の放出の抑制も認められなかった。以上の結果は、ヒスタミン分泌を抑制するためにはChymaseの局在する顆粒に、阻害剤が取り込まれる必要があることを示している。以上の実験結果に基づき、Chymaseがいかなる機序でプロテインキナーゼCを活性化し、いかなる蛋白をリン酸化してゆくかについて現在研究を進めている。
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