分子構造:ヒト、ラット、ニワトリ、カエル、イーストより高分子量多機能プロテアーゼ複合体を単離してその構造特性を比較検討した。何れの生物種の酵素ともプロテアーゼ機能としては不活性型の多触媒能を同一分子内に有し互いに類似していた。また、全ての酵素は沈降係数20S、分子量約80万の巨大分子であり、電子顕微鏡で観察した分子形状は対称的な環状型粒子構造を示した。この巨大粒子は約20個の異型サブユニットから構成される多成分複合体であり、これら構成サブユニット群には種特異的な相違が認められた。免疫二重拡散法やイムノブロット分析などの免疫学的手法においても明確な種特異性が存在した。このように本酵素は分子の大きさや形においては真核生物に共通しているが、この分子集合体の個々の構成要素には進化的な変化を受けた新しい細胞内粒子であることが判明したので、この複合体を申請者らはプロテアソームと命名した。 活性制御機構:プロテアソームは細胞内では不活性型として存在するので、活性化の分子機構を解明することは、本分子の生物学的意義を推測する為には重要である。試験管内では種々の方法、例えば蛋白質の立体構造を変化させる処理で容易に活性化出来ることを見出したが、この場合には基質の存在が不可欠であり、従ってプロテアソームの活性化は基質蛋白質の識別が連動していると推定された。また活性化された酵素は基質の非存在下では極めて不安定であり、尿素などで処理すると速やかな自己消化が誘導された。他方、生体内では半減期12ー15日と極めて遅い代謝回転速度を有する安定なハウスキーピング蛋白質群の一種と推定された。またモノクローナル抗体を用いた実験から、プロテアソームが細胞内のエネルギー依存性蛋白質分解機構の中核を形成する酵素であることが証明された。即ち、本酵素は異常蛋白質排除系の最も主要なプロテアーゼである。
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