アスパラギン酸・リンゴ酸シャトルの構成要素、キャリヤー蛋白(トラシスロケーター)の研究は、動力学的性質の解明を中心課題として進められてきた。そのためキャリヤー蛋白の単離法、アスパラキン酸・リンゴ酸シャトル系を再構成系する試みが模索されてきた。この重要なシャトル系の代謝過程での役割を明らかにするためには、個々のキャリヤー蛋白のもつ動力学的性質を明らかにすることも必要である。しかし、キャリヤー蛋白の構造情報を得ることができなければ、有効な再構成系の構築ならびに動力学的性質についての明解な解釈を得ることはできない。一次構造の決定によって得られる情報から推定される、膜貫通部分や親水性部分、二次構造情報を基に考察を加えることで、キャリヤー蛋白のミトコンドリア膜上での存在様式と反応機構に関する解析が進めることが可能となる。本研究では、この点に着目しキャリヤー蛋白に関する構造情報を得ることを目的として、キャリヤー蛋白の単離を行なった。(1)心筋に最も多くのキャリヤー蛋白が含まれ、精製材料として、マウスやラットよりブタ心筋が優れていることを見いだした。(2)リポソームの作成法とキャリヤー活性の測定法を確立した。(3)ケトグルタル酸キャリヤー蛋白を精製し、特異抗体を作成した。(4)アスパラギン酸キャリヤー蛋白は安定性に乏しく、大量精製を行うためには、より有効な安定化剤を見つけることや、アフィニティーカラムによる精製のための担体の開発が必要であることを確認した。上記のような研究成果が得られたが、当初にかかげた目標のためには、まだ解決すべき問題点も数多く残されている。一つは出発材料であるミトコンドリア粒子の心筋からの大量精製法を、さらに簡便かつ効果的にすることである。第二にキャリヤー蛋白の迅速な分離精製法の確立、とりわけアフィニティークロマトグラフィーの導入が必須とすることが予想された。
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