研究概要 |
本研究の目的はヒトなど真核生物における遺伝子形質の臓器固有な発現機構に, 原核生物ではその関与が認識されつつあるアンチセンスRNAが翻訳段階での調節に関わっているか否かを検討することにある. 特に病態との関連においては重要である. アルギニノコハク酸合成酵素(ASS)を欠損するジトルリン血症の中のII型では腎臓や培養皮膚線維芽細胞などにおいて正常量存在するASSが肝臓でのみ欠損していること, しかしASSmRNAは量・サイズ・構造等ほぼ正常であること, 塊状の異常な肝内ASS分布が認められることなど特異的な像を示すので, 上記アンチセンスRNAによる翻訳段階での調節の可能性が考えられる. そこで, アンチセンスRNAとセンスRNA(mRNA)を区別するためのプローブを得るため, ASScDNA(pAS1)及びその制限酵素切断断片を各々にSP6プロモーターを持つベクターに入れた. 正方向のものはSP64に, 逆方向のものはSP65に入れ, センスRNAとアンチセンスRNAを産生するクローンを別々に単離することができた. しかし, pAS1はASSmRNAの5´末端領域を欠いているため, その領域を含む遺伝子DNAをクローニングすることにした. ASSには多数の偽遺伝子が存在するためスクリーニングには困難を要したが, pAS1に欠けている5´領域を含むクローンを得ることができた. 往復式振とう培養機と微量高速冷却遠心機は上記の成果を挙げる上で大いに利用され非常に役立った. 一方, 免疫組織化学的手法を用いてASSの肝内分布を更に症例数を増やし検討した. 塊状分布を示す症例(解析25例中14例)は予後が悪い(12例死亡)ことを見い出した. 肝内ASSmRNAの分布を検討する目的で〔^3H〕dCTPで標識したASScDNAをプローブにして, ラット肝を用いて固定法などの実験条件を確立するため予備実験を行っている.
|