本研究の目的は、ヒトなど真核生物における遺伝子形質の臓器固有な発現機構に、原核生物ではその関与が認識されつつあるアンチセンスRNAが翻訳段階での調節に関わっているか否かを検討することにある。特にヒトの場合、これが病態を引き起こす要因となればその重要性は大である。我々はシトルリン血症(アルギニノコハク酸合成酵素:ASS欠損)の中で非常にユニークなII型を見い出している。このII型シトルリン血症は、腎臓や培養皮膚線維芽細胞などにおいて正常量存在するASSが肝臓でのみ欠損していること、しかし肝ASSmRNAは量・サイズ・構造等ほぼ正常であること、塊状の異常な肝内ASS分布が認められることなどの特異的な像を示す。そこでアンチセンスRNAによる翻訳段階での調節の可能性の有無を検討するため下記の実験を行った。 アンチセンスRNAとセンスRNA(mRNA)を区別するためのプローブは昨年度SP6プロモーターを持つベクターを用いて準備した。II型シトルリン血症の肝臓からRNAを抽出し、上記リボプローブを使って、ドットブロット並びにノーザンブロット法でアンチセンスRNAの有無を検討した。しかしながら、II型シトルリン血症の肝臓にアンチセンスRNAが発現し翻訳レベルでの調節を行っているという確証は得られない結果であった。 一方、II型シトルリン血症のもう1つの特徴である肝内ASSの異常分布をさらに追求することを目的に、ASSmRNAの分布をin situ hybridizationの手法を用いラットで予備実験を行った。ラット肝ASSmRNAの分布はASS蛋白の分布と一致した結果が得られた。この方法をヒトに応用していくとき、一番の問題点は肝細胞切片の固定である。今後更に固定法などの検討を加え、II型シトルリン血症の肝ASSmRNAの分布を明らかにしてゆきたい。
|