尿素合成に関与する酵素群の1つであるアルギニノコハク酸合成酵素(ASS)の異常はシトルリン血症を引き起こす。多くのシトルリン血症を解析する中で「量の異常型」(成人型、II型)という特異的な病態があることを見い出した。その特徴は、腎臓や培養皮膚線維芽細胞などでは正常量存在しているASSが肝臓でのみ欠損していること、しかし肝ASSmRNAは量・サイズ・構造等ほぼ正常であること、さらに塊状の異常な肝内ASS分布が認められることなどである。我々は50例に及ぶII型シトルリン血症を解析しているが、肝ASSのみ欠損する根本的な機構は未だ明らかでない。原核生物では翻訳段階で影響を与える調節因子としてその関与が知られているアンチセンスRNAがヒトなどの真核生物の遺伝子形質発現に関与するか否かを目的に、この特徴ある病態について解析を行った。SP6プロモーターでリボプローブを調整しII型シトルリン血症から抽出した肝RNAをドットブロット並びにノーザンブロットでアンチセンスRNAの存在の有無を検討したが、ポジティブな結果は得られなかった。恐らく別の機構により翻訳調節が行われているものと考えられる。最近PCRという新しい方法が開発されたので、この方法を用いてII型ASSmRNA及び遺伝子DNAの塩基配列を詳細に調べると同時に臓器固有(細胞固有)な発現に関与する調節因子を明らかにしてゆきたい。一方、II型シトルリン血症で異常な塊状を示す肝内ASS分布は、更に症例数を増やして検討した結果、予後が悪い症例に多く見られることが明らかになった。この異常な肝内ASS蛋白分布とASSmRNA分布を比較検討することはII型シトルリン血症の原因を明らかにする上で重要かつ興味あるところである。ラットを用いてin situ hybridization実験を行うことができたので今後肝切片の固定法を検討し、II型シトルリン血症に応用する。
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