脳虚血後などに、リン脂質よりアラキドン酸が切り出され、プロスタグランジン(PGと略す)などのアラキドン酸代謝物が激増することが知られている。このような病的状態の際に、PGなどがどのような役割を担っているかを調べることが、本研究の目的である。研究の初年度は、PGD_2、PGE_2、PGF_<2α>が、脳局所のグルコース利用能を抑制する効果を見い出したので、本昭和63年度は、直接に、エネルギー代謝の源であるミトコンドリア呼吸系に対するPG類の効果を検討した。即ち、脳を低温室で取り出し、直ちにホモジェネートを作って、ミトコンドリアを単離し、一方で、分光光学的方法によりミトコンドリアのチトクロム電子伝達系の酸化還元を、他方で、酸素電極により、State 3.State 4の呼吸速度、呼吸比を測定した。アラキドン酸は、脂肪酸のうちでも特に脱共役作用が強く、10μMの濃度で、双方の測定に大きな効果を与えたが、PG類や他のアラキドン酸代謝物は、この2つの系で、どちらにも有意な作用を示さなかった。インドメサシンなどで、ミトコンドリア調整中の内在性PGを抑えても、与えたPGの効果を有意に見ることはできなかった。現在、チトクロムオキシダーゼに対するPG類の直接効果を検討している。また、糖輸送系や解糖系酵素に対するPG類の効果についても検討する必要が生じてきた。更に、アラキドン酸自身のミトコンドリア呼吸素に対する効果の分子機構も非常に興味深く、研究を進めている。
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