LECラットは、北大実験生物センターで樹立された生後3ー4カ月で突然重篤な黄疸を主症状とするヒト劇症肝炎に類似した病変を高率に発症し死亡する。長期生存例において肝癌の自然発症が高頻度で認められている。昨年度において、LECの肝炎・肝癌の発生過程において、薬物代謝系の酵素偏倚について明らかにした。本年度は、それらの代謝酵素群のうち特にシトクロムPー450に注目し、その発現様式について検討した。さらに、遺伝子発現に影響を及ぼす一因子であるDNAのメチル化の程度を検討した。6週齢LECおよびLEA(対照)ラットにフェノバルビタール(PB)80mg/kg、メチルコラントレン(MC)40mg/kg、4日間腹腔内投与した。また、アザシチジン(5ーAza)を25mg/kg腹腔内投与し、24時間後に測定に供した。その結果、非誘導時では、雄性LECラットにおいてPB型分子種の発現量の減少と逆にMC型分子種の増大がみられた。PB投与により、PB型分子種は活性で51倍、蛋白量で8倍誘導され、一方、MC投与によりそれぞれ6.3倍、9.7倍誘導された。誘導能は、対照ラットよりも顕著であったが性差はみられなかった。アザシケジン投与によりPー450量と薬物活性は対照ラットに比して著しく減少した。以上の結果から、LECラットにおけるPー450発現量は分子種により挙動を異にしており、特にMC型分子種の発現量の増大が癌化の素因の一つと考えられる。さらに肝炎または肝癌発症時にはLECラットの肝DNAのメチル化の程度は有意に低下していた。DNAメチル転移酵素の阻害剤であるアザシチジンに対する感受性はLECラットの方が高かった。以上の結果より、常染色体劣性遺伝様式をとるLECラットの肝炎・肝癌の自然発症にDNAの低メチル化が関与している可能性が示唆された。
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