1.本物質の精製:近年、本態性高血圧の成因における内因性ジギタリス様物質の役割が注目されている。そこで、片腎を摘出し、DOCA(Deoxycorticosterone acetate)を投与し、1%食塩水を飲用させて高血圧にしたラットの尿中から、ラット脳より部分精製したNa^+、K^+-ATPaseの阻害活性を指標として、限外ろ過膜(Amicon YM-10)、CM Sepharose、Sephadex G-10、抗ジゴキシン抗体Affinity column、逆相HPLC及び分子ふるいHPLC等を使用して、本物質を薄層クロマトグラフィー法にて単一と認められるまでに精製した。2.同定:上記にて精製された標品は用量依存性にNa^+、K^+-ATPaseを阻害し、125_<I->ジゴキシンと抗ジゴキシン抗体との結合を阻害し、静脈内投与により血圧を上昇させた。本標品は6N塩酸、110℃の嫌気的条件下で20時間加水分解を行うことにより、そのNa^+、K^+-ATPase阻害活性が消失した。また、本標品のNa^+、K^+-ATPase阻害活性は種々のペプチド分解酵素(Pronase、Prolidase、Aminopeptidase P及びLysine endopeptidaseの処理によっても低下した。この際、それぞれの処理によるNa^+、K^+-ATPaseの阻害活性の減少と平行して、ジゴキシンと抗ジゴキシン抗体との結合阻害活性も低下した。この事から、本標品はペプチド性であることが明らかとなった。そこで、本標品のアミノ酸分析を行ったところ、14種のアミノ酸が同定された。現在、本標品のアミノ酸配列をプロテイン・シーケンサーを用いて決定しようとしている。これまでに本標品の同定が完了していないので、その後の計画である3.本標品の合成、4.測定法の確立、5.生体内存在部位の同定などが実行に移されていない。本標品の同定が遅れている原因は本標品の尿中含量が極めて少量であることと、本ペプチドのN末がブロックされていることとにある。なお、ラット脳にも本標品と類似した物質の存在を認めている。
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