糖尿病の病態が加齢減少に特徴的な多くの変化と酷似しており、老化のモデルと考えられている。糖尿病では高血糖に伴い多くの生体タンパク質が非酵素的糖付加反応(メイラード反応)を受ける。この反応はアルデヒドであるグルコースがタンパク質のアミノ基と反応し、シッフ塩基、アマドリ転移反応の前期反応を経て、蛍光、褐色変化、分子架橋形成等を特徴とする後期段階生成物に至る反応である。特に後期段階生成物が血管内皮障害及び神経組織の脱髄などの糖尿病合併症の発症に関係していると考えられている。しかし、修飾タンパク質の構造と組織障害との関係は不明である。本研究において、我々はメイラード反応後期生成物(AGE)に対する生体認識系の存在を見い出し、これを契機として後期生成物の同定を試み、以下の結果を得た。(I)牛血清アルブミンをグルーコースと37℃で2カ月保温して得たメイラード反応後期生成物(AGE化アルブミン)はラット肝臓類洞細胞及び腹腔マクロファージから活発に取り込まれ、ライソゾーム分解を受ける。この現象の特異性を担う細胞膜レセプターはこれまで我々がその存在を主張してきたアルデヒド修飾タンパク質に対するレセプターと同一であった。(II)米国のセラミ博士らはこのレセプター認識に蛍光性のFFI(フロイル・フラニル・イミダゾール)が関与していると提唱した。しかし、化学合成したFFIアルブミン複合体は全くリガンドにならなかった。(III)FFIの免疫学的定量法を用いた実験の結果、FFIは酸加水分解による人工産物であり、AGE標品中には存在しないことが判明した。(IV)AGEアルブミンの主要蛍光物質はリジン誘導体から得たAGE産物の蛍光物質と同一であることが、免疫生化学的実験から明らかになった。以上の結果は、メイラード反応の後期生成物には共通の修飾構造が存在し、それがレセプターによる認識に関係していると考えられる。
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