研究概要 |
62年度は向精神作用物質のなかでも, 遺伝子発現調節の作用が比較的明確になっているステロイドホルモン(糖質コルチコイドと性ステロイド)を実験動物に投与して各神経ペプチド前駆体遺伝子発現の変化を検討した. まず, エンケファリン, コレシストキニン, ソマトスタチン前駆体mRNAの脳内部位での微量定量法や放射免疫測定法による神経ペプチド前駆体の分析法を確立した. これを用いてステロイドホルモン投与後の脳内エンケファリンおよびコレシストキニン前駆体mRNAレベルの及ぼす影響を検討したところ, 脳内各部位(大脳皮質, 海馬, 中隔, 線条体など)では顕著な変化が認められなかったが, 下垂体前葉のエンケファリン前駆体遺伝子発現はステロイドホルモンによる調節をうけている可能性を見出した. また, 精神作用に重要な働きをしていることが推定されている終脳ではではコレシスキニン前駆体遺伝子が生後発達の初期に一過性の増大と性差を示し, 内在性の性ホルモンが中枢神経系の神経ペプチド遺伝子発現に影響を及ぼすことが示唆された. 脳では発生(発育)段階でホルモン類による構造や機能の修飾が起こることが知られているため, 次年度では発達段階での向精神作用物質の影響をみることを計画している. ニューロン内の神経ペプチド遺伝子の発現の制御を研究する場合, 目的とする作用物質の受容体遺伝子も同じニューロンで発現している必要がある. ところが, 脳では神経ペプチドとホルモン(薬物)受容体の共存例に関するデータが極めて少ないため, 神経ペプチド遺伝子と受容体遺伝子を発現している比較的単純な実験系たとえば培養細胞系などの確立が必要と考えられる. そこで62年度には予備的実験によってエンケファリン前駆体遺伝子を発現している数種の培養細胞系を確立した. 次年度からは, これらの系を用いた解析も並行して行なう予定である.
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