研究概要 |
昭和63年度に引き続き向精神作用物質による神経ペプチド遺伝子発現の特徴を培養細胞を用いて解析し,以下の結果を得た。 1)ラット精細管周囲細胞にはエンケファリン前駆体(pEnk)遺伝子が発現していたが、細胞内サイクリックAMPを上昇させるような物質で顕著な増加が起こった。また,プロテインキナ-ゼC系を活性化することが知られているフォルボルエステルでもpEnk遺伝子発現の増加が起こった。このフォルボルエステルとサイクリックAMPとは相乗的な効果を示した。また,グルココルチコイドはサイクリックAMPによるpEnk遺伝子発現の増加を増強したが,フォルボルエステルの効果にはほとんど影響を与えなかった。これらの結果から、pEnk遺伝子発現の調節はサイクリックAMPを介したプロテインキナ-ゼA系とC系の両者が独立した機構で作用している可能性が考えられる。 2)前年度に胚細胞(生殖細胞)中にもpEnk遺伝子が強く発現しており,そのmRNAの分子量や調節機構が異なることを見出した。このpEnkmRNAの構造を解析したところ、他の体細胞で発現している型ではpEnk遺伝子のイントロンとして除去される部分が5'末端に含まれていることが判明した。この型のmRNAは胚細胞にのみ発現していた。 3)神経系発生期における神経ペプチド遺伝子発現の特徴を検討するため,embryonal carcinoma(EC)細胞の神経分化刺激後の種々の神経ペプチドmRNAを測定した。ソマトスタチンは神経細胞内で遺伝子発現しているがエンケファリンやコレシストキニンは非神経細胞(グリア前駆細胞など)で発現していることが明らかになった。 以上の結果,神経ペプチド遺伝子は二次情報伝達系や神経系発生によって変動する核内因子によって発現調節を受けている可能性が示唆される。
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