研究概要 |
本研究ではヒト胃癌の発生, 進展過程で, 腫瘍細胞の増殖・浸潤が, 腫瘍間質, とくに腫瘍血管の発達とどのような関係にあるのかを調べようとした. 先づ, 方法論として, 外科手術摘出胃の動静脈を確保し, トリチウムチミジンスはブロモデオキシウリジンを添加した人工血液FC43液を潅流し, DNA合成期細胞核をラベルシ, 組織切片上でこれらを同定しようとした. 潅流の方法はほぼ確立することが出来たが, 人工血液FC43の水素イオン濃度, 及び温度がしばしば不安定となるために, 成績にバラツキが生じることが判明した. そこで新たに完全閉鎖系の持続酸素化・恒温潅流装置を考察試作して用いたとこ, 安定したラベルが得られるようになった. 一方ブロモデオシウリジンでラベルした後に抗プロモデオキシウリジン抗体を1次抗体とした免疫金・銀増感反応を行なってラベルされた核をメタル銀の析出により認識する方法を開発し, これにより, ヘマトキシリン・エオジン染色に重ねて細胞増殖動態解析を同一切片上で行なうことが出来るようになった. この方法はトリチウムのような同位元素を用いることなく, 迅速で確実なラベルを得ることが出来るので, 今後はこの方法を主に用いることにした. DNA合成期細胞のラベルにひき続いてゼラチン強化墨汁にて臓器を潅流し血管内腔のモルドを作成して腫瘍血管新生を調べた. 腺感形成性の胃癌では癌が粘膜内にとどまっている時期から既存血管は太くなり, さらに新生腫瘍腺感を取囲んで癌は血管新生がおこっていることが分かった. 一方びまん型の胃癌では粘膜内で血管新生をほとんどおこさない場合と, 旺盛な血管新生をおこすものとの二者があることが分かった. 後者では一般に細胞が小型でN/C比が高く, お互いに索状に接触して存在する傾向があり, また細胞分裂増殖が例外なく亢進していることが分かった. 今後血管新生と腫瘍の増殖浸潤との関係の物質的基礎も調べたい.
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