ヒト担癌外科切除胃に対してbromodeoxyuridine添加人工血液と墨汁による臓器体外灌流を行い、胃癌の増殖・浸潤と腫瘍血管増生の関係を調べた。先ず分化型腺癌では個々の癌腺管を取囲むようにして網目状の腫瘍血管が早期から発達しており、その血管増生は実質である腫瘍腺管の増生に比例的であった。一般に癌が粘膜下層以下へ浸潤しているところで最も癌腺管の増生が著しかったので、この部位で最も顕著な腫瘍血管増生が見られた。また腫瘍血管は非腫瘍部の粘膜血管と較べて太く、粘膜固有層内の癌の先進部で癌細胞が既存腺管を置換しつつある部分に於いても既存粘膜血管が癌細胞の存在部位に至ると急に太くなり、既に正常とは異なることが観察された。一方、未分化型胃癌では粘膜固有層における血管発達は一様ではない。癌細胞が接着性に乏しくお互いに遊離して存在している場所では殆ど血管新生を認めず、既存血管が腫瘍の存在により遠心性に圧排されているのが観察された。一方癌細胞の密度が高く、相互の接着性が増して粘膜表面に対して垂直方向に索状構造が形成されている部位では血管新生を認めた。一般に未分化型癌は粘膜固有層内で既存の増殖細胞帯を模倣した増殖ゾーンを形成しているがそれは癌細胞がassociativeな性格を持ってより顕著な索状構造を示す部位に一致していた。そしてこのタイプの胃癌の細胞増殖の亢進部位には旺盛な腫瘍血管増生が認められた。また粘膜下層以下の癌の浸潤部位では線維増生とともに例外なく腫瘍血管増生が認められた。分化型胃癌、未分化型胃癌ともに粘膜下浸潤癌の粘膜下浸潤をおこしている場所は癌の平面的ひろがりの中のある限られた場所に存在したが、その場所は間質側から観察すると腫瘍血管新生が顕著に認められるところであった。以上から、胃癌の増殖・浸潤と腫瘍血管増生の間には共通した物質的基礎が存在する可能性が示唆されたがそれは今後の重要な研究課題と考える。
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