研究概要 |
1.腎糸球体にIgA、補体沈着の著しい肝硬変症4例、特発性間質性肺炎1例ならびにびまん性汎細気管支炎2例の剖検腎凍結切片500〜800枚から糸球体溶出液を得て、多量体IgAを証明した。糸球体に沈着したIgAに対する抗原物質のひとつとして大腸菌、緑膿菌、リポポリサッカライド(LPS)などの細菌成分を指摘しえた。そこで以下の実験を行った。 2.北里大学本間博士より供与された三種類の緑膿菌株(O抗原type1,2,3)ならびに理研より購入した大腸菌、Hemophilus influenzae(H.inf),Klebsiella pneumoniaeのホルマリン固定細菌と二種類のLPSを用いて実験を行った。マウスC3H/HeN雌において上記細菌を含む給水経口投与(PO)群あるいは完全フロインドアジュバント(CFA)と共に上記細菌を腹腔内投与(ip)した群に分けて、IgA腎症モデルの作成を試みた。マウス5週令より実験を開始し、10週令、20週令、30週令にて屠殺し、心房採血による血清と各臓器を採取した。各臓器に組織学的ならびに免疫組織学的に検索を行い、腎について電顕的検索を行った。腎糸球体の蛍光所見では、マウス糸球体の特性としてみられるIgGとIgMの沈着は抗原刺激と無関係にみとめられるが、C3の共存はみられない。po群ではIgAとC3の共存が目立つようになった。ip群ではCFAのみ投与した対照を含めIgGとIgMの沈着が減少し、IgAとC3沈着が増加した。組織学的所見もメサンギウム基質の増加が目立ち、とくにH.infのip群ではヒトIgA腎症類似のメサンギウムの変化をみとめた。 3.今後の研究課題:(1)細菌々体成分を分析する。(2)細菌々体成分とマウスあるいはヒトの腎糸球体内沈着IgAとの関係について検討する。(3)血尿や蛋白尿発症と糸球体障害機序について更に補体と白血球からの活性酸素とのかかわりあいを検討する。(4)粘膜免疫系における抗原刺激に対応するIgA担当リンパ球の動態について検討する。
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