研究概要 |
マウス形質細胞腫は特異的染色体転座によりc-mycがん遺伝子が再編成され活性化されている. この再編成したc-mycの発現の組織特異性, 種族特異性を検討するために, マウス形質細胞腫S194に由来組織の異なるマウスあるいはラット細胞を融合して雑種細胞を得た. S194に正常マウス脾(B)細胞, 別のマウス形質細胞, 正常ラット脾(B)細胞を融合しても, 再編成c-mycの発現は高いままであったが, 正常マウス線維芽細胞, マウスT細胞リンパ腫, 正常ラット線維芽細胞, ラット肝細胞を融合すると, その発現は抑制された. 従って, S194の再編成c-myc発現はnon-B細胞系列の因子により抑制されること, その抑制は種族を越えても認められることが分かった. 一方, このc-myc発現の抑制が遺伝子の立体構造の変化によるものかを, c-myc発現の異なるS194と正常マウス脾(B)細胞およびS194と正常マウス線維芽細胞の2種類の雑種細胞におけるc-mycのDNase I感受性を指標に検索した. その結果, 再編成c-myc発現の高いS194と正常マウス脾細胞との雑種細胞においては親細胞と同様, 再編成c-mycの方が非再編成c-mycよりもDNase I感受性が高かったのに対し, 発現の抑制されたS194と正常マウス線維芽細胞との雑種細胞においては再編成c-mycのDNase I感受性は非再編成c-mycのDNase I感受性と同じレベルになっていた. 以上の結果から, S194にnon-B細胞を融合すると再編成c-mycの発現が抑制される機構はトランスに作用するnon-B細胞由来の因子により再編成c-mycのクロマチン構造が変化することによると推定された. この再編成c-myc発現を抑制するヒト染色体を同定するため, S194にヒト線維芽細胞を融合したが, 数度の試みにも拘らず現在までのところ雑種細胞が得られていない. 今後も, 融合方法などを変え, 雑種細胞を得るべく努力したい.
|