研究概要 |
ひとスキルス胃癌における顕著なコラーゲン線維増生の要因は、胃癌細胞が産生すると思われる線維芽細胞増殖促進因子とコラーゲン産生促進因子の二つが考えられたので、本因子の生化学的特性の一部を明らかにした。 実験に供した胃癌細胞株は、KATO-III(スキルス)、MKN-45(低分化型腺癌)およびMKN-28(高分化型腺癌)とした。また、二倍体線維芽細胞は健常人皮膚から採取したHSF-1を用いた。 (1)コラーゲン産生促進因子:90%contluentとなった胃癌細胞の無血清培養2〜3日目の旧培養液を濃縮した後、Bio-Gel P-60カラムにて粗抽出し、その画分を^3H-Prolineの取込み法にて線維芽細胞のコラーゲン産生能を測定した。結果は、対照群の約3倍強高いコラーゲン産生が得られた。また、その程度は、胃癌細胞間では有位の差はみられなかった。本粗抽出物は2ng/mlEGF存在下で二層軟寒天培養法によりNRK-45F細胞のcolony形成を誘導することや、dot blot法にて市販の抗TGF-β抗体と反応することから粗TFG-βであることが明らかとなった。 (2)増殖因子の検討:スキルス胃癌の粘膜下組織における線維芽細胞の数を5例について測定した所、正常胃の同部位にある該細胞の約4倍多いことが判った。そこでスキルス胃癌細胞が線維芽細胞の増殖を促進する因子を産生していることが推測されたので、胃癌細胞の培養上清を調べた所、分子量約8,000で、等電点が5.0と4.3にpeakをもつ酸性画分に線維芽細胞の増殖促進効果のあることを認め、その程度は、^3H-TdR取込み法で対照の約3〜4倍高いことがわかった。本物質はトリプシや80℃2分熱処理に不安定であった。以上の結果から、スキルスを含めた胃癌細胞は、ヒト二倍体線維芽細胞の増殖とコラーゲン産生の促進をうながす因子を産生しており、その因子は個別のものであることが判明した。
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