本研究は3つの部分からなり、それぞれの成果の概要は、つぎのとおりである。1)多能性造血幹細胞(CFU-S)と加齢について:この項目に関しては、主として加齢にともなう造血微小環境の変化について検討した。すなわち、骨髄細胞の液体培養で維持・増殖するCFU-Sの脾コロニー形成能と、直接、老若の組合せで骨髄移植を行ってその骨髄から回収されるCFU-Sの、脾コロニーの形成能とを検討した。前者については、IL-3に対する反応性についての比較も行った。老化マウスのCFU-Sの造血刺激因子IL-3にたいする反応性を、骨髄細胞の2日間培養後、回収した細胞の脾コロニーを観察するSpivakの方法で検討すると、老化マウスのCFU-Sの反応性は必ずしも劣っておらず、むしろ高かった(平林容子、他:老化マウスにおける造血幹細胞の増殖と造血微小環境 日血総会、1988、京都)。 2)多能性造血幹細胞(CFU-S)の放射線感受性:この項目については、文献的整理及び、都合3回の追加実験によって、双方の面から、推測通りの、CFU-Sの放射線感受性にかんするheterogeneityを確認した。成果の概要は、中国の中華医学会が1988年3月27〜4月8日坑州市にて主催した「大線量放射線の生物学的影響に関する国際会議」に招かれた際に発表した。 3)多能性造血幹細胞(CFU-S)とリンパ球前駆細胞:この項目について、人為的に、ヒトmyc遺伝子を挿入したトランスジェニック・マウスを理化学研究所・相沢慎一博士より供与をうけ、このものの骨髄細胞ならびに、胸腺細胞に由来する、支持細胞株の樹立を試みた。このマーカーをゆうする支持細胞の活用により、本課題の追求への道が開かれた。
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