ret癌遺伝子産物に対するモノクローナル抗体を作製する目的で、そのcDNAから予想される17アミノ酸からなるペプチドを合成した。ret遺伝子は昨年の報告書でも述べたように5′側のfinger構造を有する遺伝子(rfp)と3′側のキナーゼドメインを有する遺伝子(proto-ret)の再配列によって活性化され、それぞれの配列に由来する融合蛋白をコードしている。今回作製したペプチドはrfp蛋白の一部に相当し、ret蛋白とrfp蛋白の両方を認識する抗体が得られると期待された。合成ペプチドをサイログロブリンに結合後、マウスに免疫し、ハイブリドーマの作製を行った。その結果、酵素抗体法にて合成ペプチドと特異的に反応する1ヶのフローンが得られ、そのアイソタイプはIgMであった。得られた抗体(以下RFP-1)が蛋白を認識できるかどうか明かにするためret蛋白とrfp蛋白を人工的に作製し、ウェスタンブロットを行った。蛋白の合成はそれぞれのcDNAからT7RNAポリメラーゼを用いてmRNAを合成し、このmRNAをウサギ網状赤血球ライセート中で翻訳させる方法を用いた。その結果、RFP-1はrfp蛋白とは反応したが、ret蛋白とは反応しなかった。即ち、ret蛋白の構造上の特徴より、RFP-1がその抗原決定基を認識できないものと考えられた。次のRFP-1を用いてアビジン-ビオチン-ペルオキシダーゼ法(ABC法)により免疫組織染色を行った。種々のヒト組織を染色した結果、精細胞の核の90%以上が強陽性を示した。他の組織では消化管粘膜上皮、リンパ節・胸腺のリンパ球、腎尿細管上皮、肝細胞の核の20-40%が散在性に陽性を示した。これらの結果はrfp遺伝子のmRNAの発現様式とよく一致しており、RFP-1モノクローナル抗体が細胞内のrfp蛋白を認識できることを示した。今後この抗体を用いてrfp蛋白の精製や機能解析を行っていきたい。
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