研究概要 |
フィラリアは,宿主の免疫の中心の場であるリンパ系に寄生しながら,他の寄生蠕虫に比べて長期間寄生するという特徴を持っている。我々はこれまで,このフィラリアを用いて虫の免疫回避に重要な役割を演ずる因子について研究してきた。そして,虫の分泌・排泄抗原(アレルゲン)と虫の周囲に好中球を集積させる因子(NCF)が,重要な因子の一つであることを見出し,それらの物理科学的性状について明らかにした。本年度は,62年度に得られた知見をもとに,Brugia pahangiを感染させたジャード,ラット,マウスを用いて,実際の感染の場でNCF及びアルゲンのフィラリア感染における役割とそれらの相互作用について研究を行った。その結果,BALB/Cマウスにおいて,B.pahangi感染に対する感染感受性に性差がみられ,雌マウスに著るしい感受性の低下がみられた。この性差の発現は感染5〜10日後という早い時期から認められ,第III期幼虫のステージが性差の発現に重要であることが,そして,エフェクター細胞としては好酸球とマクロファージが重要な役割を果たしていることがわかった。次いで,これらの細胞の動態はテストステロンによって規定されていることが明らかになり,これがフィラリア感染に性差が見られる原因となっていることがわかった。又,エフェクター機構はフィラリア第III期幼虫にのみ認められ,感染防御機能は感作脾細胞移入によっても可能であった。B.pahangi感染ジャードはミクロフィラリア血症後16週以降,好酸球の応答が著るしく低下することが知られているが,この好酸球応答の抑制はB.pahangiに特異的な抑制であり,ミクロフィラリアが抑制性物質を有していることがわかった。 以上,感染防御の点からは好酸球とマクロファージが重要であり,虫の免疫回避という点から好中球やIgE抗体が重要であることが判明した。
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