我々は2年間にわたって好中球遊走因子とアレルゲンの役割とそれらの相互作用を、フィラリア虫体の免疫回避との関連において研究してきた。今回の研究で、フィラリアの好中球遊走因子とアレルゲンを精製することができ、それらの生化学的諸性質をある程度明らかにすることができたが、虫体の免疫回避の点から両物質の宿主体内における相互作用を明確にすることはできなかった。また、一方では虫体の免疫回避現象を知るため、宿主の感染防御能から研究をすすめ、フィラリア感染におけるマクロファージや好酸球の役割について数々の新しい知見を得たが、それらを虫体の免疫回避現象に解析のために理論づけることに必ずしも成功しなかった。しかし、今回の研究でフィラリア虫体が宿主の免疫回避に働らいている因子について、いくつかの知見を提示することができた。それらをまとめると次のようになる。 1)、フィラリア虫体は好酸球遊走活性をほとんど持たず、宿主の好酸球による感染抵抗性をなるべく発揮させないようにしている。 2)、フィラリア虫体は常に多量に放出されているアレルゲンによって、宿主のB細胞をたえず刺激し、そのため免疫細胞系の疲弊を誘導している可能性がある。 3)、ミクロフィラリアは好酸球応答を抑制し、そのため宿主の感染防御能を低下させている。 4)、フィラリア感染は宿主のT細胞に作用し、宿主の免疫能に積極的に干渉し、虫体が宿主体内で長時間生存しやすいような環境を作っている。
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