研究概要 |
ネズミ糞線虫(S.r.)第一期幼虫(L_1)の雌虫は直接発育をしてフィラリア型第三期幼虫(L_3)になるか, 或いは自由生活型雌成虫になる. このスイッチング機構は寄生虫感染の観点から見て重要なのでその解明を試みた. 1.遺伝的背景の研究.エアドライ法で処理したS.r.標本での観察では雌は倍数染色体数2n=6, 雄は2n=5であり, 性決定構構はXX-XOである. なお, 雄のL_1はすべて自由生活世代の雄成虫へと発育するのみである. 寄生世代雄成虫は認められない. 2.環境的因子としての脂肪酸の発育に対する影響の研究. L_3が大量のリピドをエネルギー源として貯蔵していることが知られていることから, L_1のステージで脂肪酸を与えた時にどのような結果が得られるかを検討した. (1)L_1を種々の炭素数の各種脂肪酸を加えたネズミ糞便にて培養した. その結果, 脂肪酸添加によりL_3の産生は有意に増加し, 特に不飽和脂肪酸でこの傾向は顕著であった. (2)このうちリノレン酸で最もL_3産生が高かったので, リノレン酸の添加量を変えてL_3産生を検討した. その結果, 自由世代雄虫の発育に全く差は見られなかったが, 自由世代雌虫の産生はリノレン酸量(0.1-0.3g/g糞便)の増量によって減少した. 即ち, その分だけL_3の産生が増し, L_3産生はリノレン酸量依存性であることが示された. (3)脂肪酸がエステル化された場合の影響を調べるため3種のトリアシルグリセロールを培養に添加した. その結果, トリオレインでL_3産生がやや増加したが, トリパルミチン, トリステアリンでは影響が認められなかった. これら一連の研究から, 脂肪酸がS.r.のL_1の発育方向を決める上で大きな影響を与えること, 及びこの研究でS.r.発育決定因子を始めて化合物レベルでとらえることに成功した.
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