研究概要 |
本年度はスポロチスト分離法, その移植法, 宿主貝体内異物反応について研究が為れた. 貝体内の中腸腺に寄生しているスポロチストの分離は機械的に行うと, 完全に無傷なスポロチストを多数得ることが難しかったが, 貝自体の自家融解を利用して多数分離することができ, 融解12-24時間後に得られたスポロチストの活性は維持されたので, 25゜Cでの自家融解は分離法として使える. FA100(オイゲノール)と言う冷血動物用の麻酔剤を用いてその麻酔下に貝の殻に小穴を作り, 移植することで, 術後の死を少なくできた. 観察期間中に随時, 移植組織片を取り上げて観察し再移植する方法の開発については移植片を前もって固定することが必要であることが分かった. スポロチストを移植する時, 生食水, BSA(牛アルブミン)を飼育液とすると, 明らかに移植率に差がみられた. 更に, シュナイダーのドロソフィラ培養液を用いると, 移植率が50%内外の高率になった. 異物であるスポロチストが常に安定して確実に新しい宿主の貝の体内に移植され得る条件はスポロチストを非自己とみなす貝の免疫学的背景を観察する必要がある. 非自己の認識機構の撹乱を起こさせる条件が移植時に一緒に注入される物質の抗原性に関係すると思われる所見を得た. 最後に, クローン幼生の発生の制御条件設定の為に予備的実験が為れた. 光と温度はセルカリアの遊出リズムに大きな影響を与えると同時に, セルカリアの産出リズムにも影響する. 照明時と暗黒時の時間を, 通常の24時間(12:12)概日リズムと異なるリズムにすると, セルカリア産出の起点(96時間サイクルの開始)をほぼ確認できるので, 産出リズムと最も同調できる条件をスポロチスト(未熟あるいは成熟セルカリアを有する)移植により追求している.
|