前年度の研究においてラット小腸刷子縁細胞膜に存在するSTh結合蛋白が4種類検出された。本年度は、SThの活性アナローグのみならず、Yersinia enterocoliticaの耐熱性エンテロトキシン(Y-ST)やVibroo choleralnon 01の耐熱性エンテロトキシン(NAG-ST)の活性アナローグを合成して、4種の結合蛋白との親和性と下痢活性との相関をしらべた。その結果、分子量70kDaの蛋白(70-kDa蛋白)が極めて強い親和性を活性アナローグに対して示した。しかし、他の結合蛋白の活性アナローグに対する親和性は70kDa蛋白の親和性の1/1000以下であった。かかる事実は、70kDa蛋白が腸管膜でSTh、Y-ST、NAG-STの共通の受容体として下痢活性発現の機能、とくに毒素の初期情報伝達に寄与することを示している。次に、70kDa蛋白の精製を行った。ラット小腸膜を多量に調製し、0.1%ルブロールで可溶化し、Sephaciyl HR300カラムクロマト クロマトフォーカシング、Superose12やMonoQカラムによる高速液体クロマトを順に用いて精製した。しかし、この最終標品には数種の混在する蛋白が認められ完全な精製に至っていない。この精製の過程および部分精製標品を用いた実験から、70kDa-蛋白はより高分子受容体(分子量190kDa)のコンポーネントであり、マンノースを分子内に有する糖蛋白であることがわかった。 SThの活性中心を構成する3つのジスルフィド結合について、結合数と架橋位置を異にする7種のSThアナローグを合成してしらべた。SThのジスルフィド結合のうちN末端から7番目のシスティンと15番目のシスティンとの間のジスルフィド結合のほかにもうひとつのジスルフィド結合がSThと受容体および下痢原性に必須であり、活性中心の立体構造が極めて重要である知見を得た。
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