本研究では、細菌性下痢毒素のうち受容体との相互作用の解析が比較的容易と考えられる低分子蛋白毒素の受容体に焦点をしぼって研究を行った。毒素原性大腸菌が産生する耐熱性エンテロトキシン(STh)は、アミノ酸19残基から成る毒素で、腸管膜グアニレートシグラーゼを活性化してその結果に下痢を起こす。さらに、この毒素のN端末アミノ酸から6番目のアミノ酸と18番目のアミノ酸に至る13残基のアミノ酸部分は、3対のジスルフィド結合を有して安定であり、毒素の活性中心を構築している。まず腸管膜のSTh結合部位を検索するためにSThの活性中心を含み且つフォトリアクティブな官能基を分子中に組み込んだSThアナローグN-5-azido-2-nirtobenzoy1-STh〔5-19〕(ANB-STh〔5-19〕)を合成した。このANB-STh〔5-19〕を^<125>Iでアイソトープ標識した^<125>I-ANG-STh〔5-19〕とラット小腸刷子縁細胞膜とを反応させてUV照射し、STh結合部位をフォトアフィニティラベルした。この結果、^<125>I-ANB-STh〔5-19〕は分子量70KDaの蛋白(70KDa蛋白)と特異的に結合することから70KDa蛋白がSTh受容体であることがわかった。70KDa蛋白は、Yersinida anterocolitecaやVibno choleral non 01の産生する耐熱性エンテロトキシンともSThとの結合とほぼ同じ親和性をもって結合することから、これら3種のエンテロトキシンは共通の受容体を介して下痢原性を発現すると考えた。次に、STh活性中心の3つのジスルフィド結合の機能について、結合数と架橋位置を異にする7種のSThアナローグを合成してしらべた。SThのジスルフィド結合のうちN末端から7番目のシスティンと15番目のシスティンとの間のジスルフィド結合ともうひとつのジスルフィド結合が、SThと受容体との結合および下痢原性に必須であり、活性中心の立体構造が重要であることを示唆している。
|