本研究は、ジフテリア毒素リセプターの構造と毒素の細胞内侵入機構を遺伝子工学的手法を用いて解析し、これによってジフテリア毒素の毒性発現機構や高分子物質の細胞内輸送メカニズムを理解しようとするものである。研究の方法は、(1)培養細胞よりジフテリア毒素リセプターを分離、精製し、(2)これをマウスに免疫して毒素リセプターに対するモノクローナル抗体を作製し、(3)この抗体を用いて毒素リセプターのcDNAをクローニングして、(4)そのcDNAによってリセプターの解析を行なうというものである。 上記の研究計画に関して、昭和62年度において筆者らはサル腎由来Vero細胞よりジフテリア毒素リセプターを分離、同定し、約2万倍まで精製することに成功した。そこで今年度(昭和63年度)は、得られたリセプター分画を材料にリセプターに対するモノクローナル抗体の作製を試みた。現在までに約5種類の抗体を得ることができた。このうちの1種類の抗体は、ジフテリア毒素のリセプターへの結合を阻害し、毒素の毒性発現も阻害する。この抗体を用いて免疫沈降法によってリセプター蛋白を解析すると、昭和62年度に筆者らが蛋白精製の結果からジフテリア毒素リセプターであると同定したものと等しい分子量を持つ蛋白がリセプターとして認められた。したがって、この抗体がジフテリア毒素リセプターを認識するものであること、また毒素リセプターが以前筆者らが同定した蛋白に間違いがないことが明らかになった。そこで得られたモノクローナル抗体を用いて、cDNAの分離の準備を始めている。当初の研究計画からは若干遅れているが、本研究の最大の問題点であったモノクローナル抗体の作製にも成功したので、今後さらに大きな成果が得られるものと思われる。
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