V.cholerae non-Olはわが国では食中毒原因菌の一つに指定されているが、その病態とくに腸管内定着現象の解析はこれまで全く成されていなかった。本研究ではV.cholerae non-Olの腸管内定着現象にかかわる物質の解析を行い、次のような成果を得た。 1)線毛について:毒素原性大腸菌をはじめとする腸管感染原因菌の多くは線毛状の定着因子を有することが明らかにされている。V.cholerae non-Olが線毛を生産するか否かの検討を行い、はじめてその産生を証明することができた。部分精製も行い、他の菌の産生する定着性線毛の性状と比較検討し、本菌の線毛がユニークなものであることを明らかにした。しかし、細胞への付着に関与する成線は得られず、定着への関与はむしろ否定的であった。 2)赤血球凝集作用を有するプロテアーゼについて:ほとんど全ての本菌がプロテアーゼを産生し、また赤血球凝集作用も示すことから、いわゆるコレラ菌の定着因子の一つと考えられているHA/プロテアーゼに類似する性状を示した。そこで、この可能性を明確にするため、このプロテアーゼの精製を試み、分子量31Kのモノマーの5量体から成る物質を単離し、免疫学的、物理化学的性状等の比較成績から、コレラ菌HA/プロテアーゼと同一の物質であることを明らかにした。また、このプロテアーゼの大量精製法を確立するとともに単クローン抗体を作成し、これらを用いたワクチンあるいは予防・治療の基礎を確立した。また、このプロテアーゼは腸管定着へ関与するのみならず、本菌の産生する毒素の活性化(プロトキシンのプロセシングによる活性化)にも役立っていることを明らかにした。
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