準備注射として結核菌死菌を加えた油中水型乳剤をモルモットの足蹠に注射し、4〜5週間後にMDPを惹起注射として静脈内あるいは側腹部皮内注射したとき、24時間以内に準備注射部位に激しい炎症の再燃と広範な壊死性反応が起こり、時には動物は全身性ショックを呈して死に至ることを見出した。本反応は従来知られているシュワルツマン反応およびコッホ現象とは異なる反応であることを明らかにした。本反応準備状態成立には細胞免疫が誘導されていることが、必要条件の一つであるように思われる。また本反応に感受性の動物はモルモットであり、ウサギ、ラットやマウスでは惹起されないことを明らかにした。MDPの臨床応用が考えられており、特に感染病巣を有する患者への使用には問題となる可能性も考えられるので、本反応の準備および惹起反応のメカニズムについて解析をしている。本反応惹起活性とMDPの化学構造との関係を詳細に検討したところ、ムラミルペプチド類による本反応惹起活性は、これまで報告されている他の生物学的活性発現に必要な化学構造依存性とはかなり異なることを明らかにすることができた。また準備注射に結核菌以外の細菌を用いて準備状態成立の有無を検討したところ、結核菌に近縁な菌ほど強く準備状態が成立していた。グラム陰性菌は弱く、グラム陽性菌ではほとんど準備状態が成立しなかった。壊死性反応惹起前後の血液成立の変化について検討したところ、補体活性の減少、血液凝固遅延、血清中の脂質の増加等々が著名な変化としてみとめられたが、本反応を惹起しないLPS注射後にもこのような変化が観察されることから、この変化との異同について今後詳細に検討したい。本反応準備状態成立には免疫反応、特に細胞性免疫の成立が必要条件であることを明らかにしたが、本反応のメカニズムの解明は今後の問題として残された。
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