本年度の研究実施計画では、Vibrio vulnificusの病原因子、特にプロデアーゼとヘモリジンの作用を中心に検討することにした。プロテアーゼに関しては、前年度までに肥満細胞からのヒスタミン遊離および血漿カリクレインキニン系の活性化によるブラジキニン形成により皮膚血管透過性の亢進作用があることを認めているが、この作用は一過性で速やかに消失するものである。この消失の原因が、血漿中α_2-マクログロブリンによるプロテアーゼの阻害に基づくと考え、その相互作用について検討を行った。プロテアーゼはin vitroでα_2-マクログロブリンを切断して構造変化をもたらし、結果としてα_2-マクログロブリン分子内に取り込まれて失活することが示された。またヒト血漿中にはα_2-マクログロブリン以外には本菌のプロテアーゼを阻害する因子は検出されなかった。このことは、プロテアーゼの作用の速やかな消失がα_2-マクログロブリンの作用に起因することを示しており、α_2-マクログロブリンの不足などをもたらすような基礎疾患ではプロテアーゼ作用による症状が強く現れることを示唆した。ヘモリジンについてもラット皮膚を用いての検討により、ヒスタミン遊離による血管透過性亢進作用を示すことを認め、in vitroでの検討でこれが肥満細胞の膜破壊に基づくヒスタミンの遊離であり、プロテアーゼで見られるような開口分泌に基づくものではないことが示した。また溶血機構に関する研究においても、既に予備的な検討で明らかにしている浸透圧溶血の機構が働くことを確認する検討を行った。さらに、環境水中から多くのV.vulnificusを分離してヘモリジン産生を調べたところ、大部分の株が臨床分離株と同様なヘモリジンを産生していることが示された。その他の病原因子に関する研究では、感染定着に関係すると思われる側毛性鞭毛の産生と機能発現に関与する物質についての検討を行った。
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