本課題では当初の目標としていくつかのサブテーマを設定したが、このうち、Vibrio vulnificusに関する研究に大きな進展がみられた。62年度においてはこの菌が宿主体内で血清の殺菌力に抵抗して増殖するために必要な因子として莢膜の役割を示し、溶血毒素の作用機構、プロテアーゼの精製と病原性における意義についても成果をあげることができた。溶血毒素については溶血機構の解析を行ない、これがいわゆる浸透圧溶血の機構により進行することを証明した。また、この毒素のコレステロールへの特異的な結合性を利用して、毒素を結合したコレステロール・リポソームを用いて免疫することによって容易に特異性の高い抗血清を調製する方法を開発した。プロテアーゼに関してはその酵素化学的性質を検討してZnを含む金属プロテアーゼであることを示し、生体内で肥満細胞からのヒスタミン遊離および血清カリクレイン・キニン系の活性化によるブラジキニン生成の両経路により皮膚血管透過性を亢進させることを明らかにした。63年度においては、プロテアーゼの皮膚血管透過性の亢進作用が一過性で速やかに消失する原因が血漿中α_2ーマクログロブリンによるプロテアーゼの阻害に基づくと考え、その相互作用について検討を行った。プロテアーゼはin vitroでα_2ーマクログロブリンを切断して構造変化をもたらし、結果としてα_2ーマクログロブリン分子内に取り込まれて失活することが示された。またヒト血漿中にはα_2ーマクログロブリン以外には本菌のプロテアーゼを阻害する因子は検出されなかった。このことは、α_2ーマクログロブリンの不足などをもたらすような基礎疾患ではプロテアーゼ作用による症状が強く現われることを示唆した。ヘモリジンについてもラット皮膚を用いて、ヒスタミン遊離による血管透過性亢進作用を示すことを認め、in vitroでの検討でこれが肥満細胞の膜破壊に基づくヒスタミンの遊離であることを示した。
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